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神戸地方裁判所 昭和38年(わ)21号 判決 1964年3月17日

被告人 林忠志

昭二一・四・二〇生 無職

主文

被告人を懲役一〇年に処する。

未決勾留日数中二〇〇日を右本刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和二一年四月二〇日横浜市内で熔接工をしていた父庄蔵の長男として出生したが、幼にして父母が離別し、生母は被告人等兄弟を残して家を去り、継母に養育せられたため、成長するにつれて生母の薄情と継母の虐待を恨み、性格は歪められ、小学生時代から非行を重ね児童の収容施設を転々とした後、中学校卒業直前の昭和三七年三月頃窃盗事件の嫌疑を受けたことから両親に叱責せられたのを契機として家出をし、東京都台東区浅草山谷界隈を徘徊するうち吉岡陽子と識り内縁関係を結ぶに及んで、同女の信頼を得るため、健実な会社に勤務しているかのように装い、関西方面で窃盗行為を敢行しようと決意したものの、同女には社用で出張すると称して、同年四月四日夜単身東京を出発し、翌五日朝来神した。

そして被告人は、

第一、昭和三七年四月五日午後一時三〇分頃、神戸市東灘区本山町小路七六番地佃安弘方に赴いたところ、同家は文化住宅の二階で、折柄南側六畳の間に同人の内妻日高今朝子(当時二九年)が妊娠三ヶ月でつわりのため勤務先を休み寝床に伏していたが被告人が同家炊事場に入つて来た物音に寝巻姿のまま起き出し炊事場に近付くや、同女の顔をにらめつけながら詰め寄り、同女が極度の恐怖を感じて後退りするや更に前示六畳の間まで追い詰め、婦女独り留守居しているのに乗じ、同女に対し「大阪まで帰る金を貸せ」と申し向けて脅迫し、その反抗を抑圧した上同室にあつた現金二〇、〇〇〇円在中の封筒から現金五、〇〇〇円を奪い取り、次いで同女をその場に引き倒して細紐で後手に縛つた際同家西外側で物音がしたように感じたので、隣の三畳の間に行つたところ、同女が「泥棒」と大声で叫んだので急拠同女の口をふさがんと六畳の間にとつて返し同女に迫ろうとしたため、表窓際に近よつて外部に助けを求めようとしていた同女をして恐怖、狼狽の余り後手に縛られたままで開けた表窓から下方約五・五メートル階下路上に転落せしめた上、更に前示封筒中の残金一五、〇〇〇円を強取し、右暴行により同女をして同月九日午後三時二四分頃同市生田区楠町七丁目一三、一四番合併地神戸医科大学附属病院中央病棟四階五〇八号室において左大脳硬脳膜下血腫及び脳挫創により死亡するに至らしめ、

第二、右事件と前後して別紙犯罪一覧表(一)記載のとおり単独又は吉田猛外一名と共謀して、同年二月八日頃から同年一〇月五日頃迄の間前後九四回に亘り横浜市保土ヶ谷区桜ヶ岡四番地鈴木福治方外九三ヶ所において同人等所有又は保管にかかる現金指輪等を窃取し、

第三、別紙犯罪一覧表(二)記載のとおり同年四月二〇日頃より同年一〇月二日頃迄の間前後二二回に亘り、東京都渋谷区恵比寿西二丁目一八番地有楽荘内関根キミ子方外二一ヶ所において、同人等所有又は保管にかかる現金等を窃取するため屋内を物色したが、いずれもその目的を遂げなかつ

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為中、第一は刑法第二四〇条後段に、第二は同法第二三五条(共謀の点につき同法第六〇条)に、第三は同法第二四三条、第二三五条に各該当するところ、第一の罪については、所定刑中無期懲役刑を選択し、以上は同法第四五条前段の併合罪であるが、判示第一の罪について無期懲役刑を選択したので、同法第四六条第二項により他の刑を科さないこととし、被告人は本件強盗致死の犯行当時一八歳に満たない少年であるから、少年法第五一条後段を適用し、その所定刑期の範囲内で、被告人を懲役一〇年に処し、刑法第二一条に則り未決勾留日数中二〇〇日を右刑に算入する。なお訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項但書を適用して被告人に負担させない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 石丸弘衛 原田直郎 加藤光康)

犯罪一覧表(一)、(二)(省略)

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